デジタル技術で痛みに苦しむ人々を
助けられるのか?
理学療法学科/教授/大鶴 直史
Department of Physical Therapy/Naofumi Otsuru
VR・MRや新たな脳刺激技術を活用した次世代のリハビリテーション
実習を通して出会った原因不明の激痛と戦う患者さんを救いたい。
大学時代は医学部保健学科に所属し、理学療法を専攻。実習で病院を訪れた際、脳卒中の後遺症で手足に激しい痛みを抱え、身動きがとれない患者さんに出会いました。その痛みは、手術の対象でもなく、投薬によっても効果が得られず、患者さんは「いつ治るのかわからない」という不安の中で苦しむ毎日。なぜこのような痛みが起きるのかを解明したいと思い、痛みと脳をテーマに研究することを決意しました。実はその患者さんのように、外傷もなく、レントゲンやMRIでも異常が見つからないのに長年激痛に悩むケースは少なくありません。また、痛みがあまりに強いと、その部位を自分の体の一部として認識できなくなることがあります。例えば手が痛い場合、目を閉じると自分の手がどこにあるのかわからなくなってしまうのです。原因が分からなければ治療法も見つからず、治療期間の見通しも立たない。そもそも治るかどうかもわからない状況は、想像を絶する辛さだと思います。こうした症例に対する治療法は、現在も世界中の研究者によって模索されており、私も解決策を見つけたいと考えていました。その中で出会ったのが「VR(仮想現実)技術」と「脳刺激技術」です。
従来の治療では難しいケースでも改善をする可能性が。
VR・MRや脳刺激技術が新たなリハビリテーション手法になるかもしれない
現在、私の研究テーマは大きく分けて2つあります。1つ目は、VR技術やMR(複合現実)技術を活用したリハビリテーション。痛みがあって動かすことが困難になった手足や、自分のものでは無いように感じている手足を、VR上で動かしたり、見た目を変化させることで、症状を軽減させられる可能性があります。2つ目は、脳を電気で直接的に刺激する脳刺激技術。これまで困難とされてきた脳の深部を刺激できる技術の開発に取り組んでいます。痛みのみならず、患者さんが抱える精神的な苦悩を改善できるかどうかを今後検証していく予定です。今後、理学療法士がデジタル技術を活用する重要性はますます高まると思います。数学や物理が得意な人や、プログラミングに興味がある人は、リハビリテーションの未来を変える大きな力になるかもしれません。そしてその力は、終わりのない痛みと戦う人や思い通りに体を動かせない人など、多くの人々の人生に希望の光を灯す可能性があります。