アルツハイマー型認知症患者に寄り添う、
AIを活用した医療とは?
診療放射線学科/講師/吉田 宜清
Department of Radiological Technology/Nobukiyo Yoshida
AI技術を活用したMRI画像のアーチファクト除去に関する研究
頑張るのは、患者さんではなく“AI”。
認知症を患う人のために、より正確で精密なMRI画像撮影を目指して
私は大学卒業後、約17年間大学病院で診療放射線技師として働いてました。アルツハイマー型認知症を患う方のMRI検査をする機会が多かったのですが、検査中に患者さんが動いてしまうことで、「アーチファクト」というMRI画像のノイズが入ってしまうこともしばしば。アーチファクトが入った画像を解析に使うと、「海馬(かいば)」の体積が実際よりも小さく見えて、認知症の進行度を誤って判断してしまうことがあります。海馬は記憶に関わる脳の重要な部位で、認知症が進行すると体積が減ることが分かっています。そのため、海馬の状態を正しく調べることは認知症の早期発見や進行度の診断に役立っているのです。
アーチファクトが入ることを防ぐために患者さんの頭をクッションで固定してみたこともありましたが、患者さんが指示を理解できなかったり、指示されたこと自体を忘れてしまったりしてうまくいかない日々。なかなか正しい解析ができず、医療現場は頭を悩ませていました。
そんな状況を打開すべく試行錯誤をする中で出会ったのが、AI技術。「アーチファクトが入った画像を、AIを用いて正確な画像に修正できないか?」と考えたのです。
この研究は、未来だけでなく過去も救う。AI技術は思い通りにいかないからこそ面白くて興味深い
現在、私はAI技術を活用し、アーチファクトが入った画像を正確に診断可能な画像へと改善する研究に取り組んでいます。これまでにシミュレーション上でアーチファクトの影響を軽減することに成功しましたが、実際の体動によるアーチファクトの補正はまだ検証中で、さらなる研究が必要です。
私たちの研究が成功すれば、AIによる補正で海馬の体積をより正確に測定できるようになり、アルツハイマー型認知症の診断や経過観察の精度向上につながります。過去に撮影したMRI画像も修正できるので、未来の患者さんだけでなく、現在進行系で認知症を患っている方も救えるのです。
AIの学習には時間がかかり、数日かけて調整しても真っ白な画像が出ることもあります。思い通りにいかないことが多いですが、補正がうまくいった時の喜びは格別です。皆さんの「こんなふうになったら便利かも」という小さなひらめきが、未来を変える研究の第一歩。好奇心を持ち、ワクワクしながら取り組んでいただけたら嬉しいです。