口唇口蓋裂の子どもが
社会性豊かに育つための言語発達支援とは?
言語聴覚学科/講師/大湊 麗
Department of Speech, Language, and Hearing Sciences/Rei Ominato
言語発達に役立つ臨床研究が口唇口蓋裂の治療法のさらなる発展に
出生から成人まで多職種連携での治療が必要な「口唇口蓋裂」。
医療と学校教育の両面からの支援方法を深く考えていきたい
「口唇口蓋裂」は、口唇(唇)や硬口蓋(上あご)、軟口蓋(のどちんこ)がつながっていない病態のことです。日本では500人に1人の割合で出生し、最も頻度の高い先天性疾患でもあります。漢字を一見すると元々あった口唇や口蓋が裂けたように感じますが、じつはその逆。口唇や口蓋の組織は母親のおなかの中で育つ過程で接合します。しかし、ある一定の時期に何らかの要因により接合がうまくいかない状況が生じると、「口唇口蓋裂」という疾患となります。個人差はありますが、生まれてから成人するまでの長期間にわたって経過観察しながら、多職種が連携して治療を行っていきます。口唇や口蓋の形態を改善させるための手術や、噛み合わせや歯並びの形態を整えるための歯科矯正治療。それらの術後に口腔機能や言語発達を回復させるための言語治療が必要になります。すでに言語聴覚の分野に足を踏み入れていた大学院生の頃、ご家庭と幼稚園を交えた「口唇口蓋裂」のお子さんの支援に携わりました。その経験が「口唇口蓋裂」の子どもの医療と学校教育の両面からの支援について考えていく契機になりました。
「口唇口蓋裂」の子どもを持つご家族に寄り添った臨床研究がさらなる治療法の発展と子どもの言語発達に寄与する
「口はきれいに閉じるだろうか」「歯並びが整い、自分でごはんが食べられるようになるか」「話ができるようになってお友達と学校に行けるようになるのか」などご家族の切なる思いの中身こそが、臨床研究のテーマとなり、それがやりがいにもつながっています。「口唇口蓋裂」の臨床研究の最たる目標は、手術や治療法のさらなる改善とともに、子ども一人ひとりが幼児期までの早期に正常な音声と発音機能を獲得し、大人になっても良好なコミュニケーションができるようになることです。そのため治療の向上は、単に口腔機能や言語発達の回復のみならず、子どもの将来的な言語活動や人格形成を支えていかねばなりません。「口唇口蓋裂」の子どもたちが適切な治療を経て、のびのびとおしゃべりを楽しみ、社会性豊かに将来に向かって育つ姿をたくさん見てきました。大学院の時に出会った子もそのひとりです。私たちの臨床研究は「口唇口蓋裂」の治療法の発展と子どもたちの言語発達に寄与していることを感じています。