双極症患者がより良い家族関係を
つくるためのヒントを得るには?
社会福祉学科/講師/松元 圭
Department of Social Welfare/kei matsumoto
双極症患者とパートナーの破綻事例と、幼少期の家族経験に関する研究
人間誰しもが感じる気分の波に、医師によって“正常”と“異常”が区別されることに関心を抱く
大学では社会学部社会学科で、セクシュアリティに関する研究をしていました。卒業後は大学院に進学し、修士・博士課程を修了。その後、非常勤講師を経て、現在は本校で教員として勤務しています。現在の研究テーマは双極症(旧:躁うつ病)に関するものです。双極症は、気分が異常に下がる“うつ状態”と、気分が異常に上がる“躁状態”を中長期的に繰り返す症状を特徴としています。一般的には心の病気として認識されていますが、最近では脳の機能障がいとして考えられつつあり、発症の原因としては、遺伝的な要因に加えて、理想の自分を追い求めすぎることや、養育環境が影響していることも指摘されています。この研究を始めた理由は、人間誰しもが経験する気分の浮き沈みに対して、医学的に「正常」と「異常」の線引きがされる点に興味を持ったからです。また、双極症は社会的な病であるため、医学的な定義である「疾患」はある程度普遍性を持った概念ですが、社会的な背景や文化というものに影響される「病い」という視点から研究する必要があると考えています。
双極症患者とパートナーの破綻事例の研究を通して、家族が助け合える関係づくりを支援したい
現在は、双極症の患者さんやそのパートナーにインタビューを行い、患者本人とその家族の関係を良好に保つ要素、とりわけ喧嘩の原因や破綻させる要素について研究しています。患者さんはパートナーに対して、無意識にカウンセラーや医者のような役割を押し付けてしまい、一方、パートナーからすると、まずは妻や夫としての役割を求めている。これが溝となり、関係が破綻するケースがあります。支え合いができる家族と破綻してしまう家族。両者の事例を比較し、関係を継続できる要素を明らかにできれば、今後の支援方法に生かせると考えています。
患者の現在だけでなく、幼少期や生育環境にも着目
2022年からは双極症患者の幼少期に着目し、双極症患者の生育環境と家族経験を調査しています。これまでの医療社会学的研究と家族社会学的研究を融合させた新たなアプローチです。研究の面白さは、調査対象者との直接的な出会いや協力者から得られたテキストを通じて、他者の“考えに触れること”です。目に見えない「語り」を可視化する面白さは、日常では味わえない魅力です。