新潟医療福祉大学 救急救命学科の安達哲浩講師、竹井豊教授、外山元講師、堀英治大学院生、大松健太郎准教授らの研究成果が、国際的な救急医学専門誌「American Journal of Emergency Medicine(IF: 2.2)」に掲載されました。
◆研究概要
本研究は、日本全国の交通事故に関連する院外心停止症例9,525件を対象に、都道府県別の1ヶ月生存率における地域差を明らかにした全国規模の観察研究です。救急搬送記録とウツタイン様式に基づく心停止データを統合し、患者の特徴、救急活動、医療資源などの要因との関連を詳細に解析しました。
◆研究成果のポイント
• 都道府県ごとの1ヶ月生存率は最大で10倍の差(0~10.9%)がありました。
• 生存率が高い地域では、三次救急医療機関(救命救急センター等)への搬送割合が高く(62.0%)、医師数・高度医療施設数も多い傾向がありました。
• 一方、生存率が低い地域では、救急救命士による気管挿管などの高度気道確保(37.7%)や薬剤投与(29.8%)の実施率が高いという結果が得られました。
• 統計モデルにより、目撃された心停止や市民による心肺蘇生、救命救急センター等への搬送は、生存率の向上に有意に関連していました。


◆社会的意義と今後の展望
これまで院外心停止の予後は、患者の年齢や心電図波形、市民による対応といった患者の特性要因に焦点が当てられてきました。本研究はそれに加え、“どこで起きたか”という地域的要因が生存率を大きく左右することを初めて全国規模で実証しました。
研究チームは、今後の施策として次の3点を提言しています。
1. 救命救急センター等への搬送体制の整備と広域搬送の推進
2. 地域に応じた救急医療体制の強化とトリアージ基準の最適化
3. 住民・市民向けの一次救命教育と通報体制の強化
◆研究者のコメント

安達哲浩 講師
交通事故による心停止という突発的な事象でも、“地域による医療アクセスの格差”が生存に大きく影響していることが分かりました。どの地域にいても適切な救命処置が受けられる体制づくりが急務です。救急救命学科の学生にも、このような現実に目を向けながら、現場での判断力と行動力を養ってもらいたいと願っています。
◆研究者情報
新潟医療福祉大学医療技術学部 救急救命学科
講師 安達哲浩
◆原論文情報
タイトル:
Regional disparities in 1-month survival following traffic accident-related out-of-hospital cardiac arrest in Japan: A nationwide observational study
著者:
Tetsuhiro Adachi, Yutaka Takei, Gen Toyama, Eiji Hori, Kentaro Omatsu
掲載誌:
American Journal of Emergency Medicine, Vol.96, pp.249–255, 2025
DOI: https://doi.org/10.1016/j.ajem.2025.07.002
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