義肢装具自立支援学科の金澤雅人教授の総説が10月30日発行の国際誌「Neural Regen Res」に掲載されました。
◆研究概要
脳卒中は、世界的に後遺症や死亡の大きな原因となっています。急性期の血栓溶解療法や血管内治療が進歩しても、多くの患者さんでは神経機能が十分に回復しないことが課題です。私たちの研究グループは、その背景に「免疫と脳の対話」が深く関わっていることに注目しています。
特に、血液中の免疫細胞の一つである「単球を含む単核球」が、発症後に脳へ入り込み、脳内の細胞(グリア細胞、神経細胞など)と活発にやりとりすることが分かってきました。このやりとりは、炎症を悪化させて傷害を広げることもあれば、逆に修復を促して回復を助けることもあります。
私たちは末梢血単核球(PBMC:Peripheral Blood Mononuclear Cell) を使った治療法を研究しています。PBMCとは、血液中を流れる免疫細胞の一群で、採血で比較的簡単に得られる利点があります。私たちは、このPBMCに「酸素・グルコース欠乏(OGD:Oxygen-Glucose Deprivation)」という条件を与えて前処理し(OGD-PBMCs)、脳卒中モデルに投与することで、障害部位の環境を改善する作用を確かめています(血管の新生、炎症の抑制、神経の再成長を促す)。さらには機能回復を助ける効果が期待できることを明らかにしてきました。

また、近年、腸内細菌と免疫、そして脳をつなぐ「腸―免疫―脳連関」も、脳卒中の経過に大きな影響を及ぼすことが明らかになってきました。これらの仕組みを理解することで、細胞療法やエクソソーム(細胞から出る微小な物質)を利用した新しい治療法の可能性が広がっています。
本総説では、脳卒中後の免疫細胞と脳細胞の複雑なやりとり(クロストーク)を整理するとともに、それを利用した最新の治療研究の動向を紹介しました。今後は「免疫を適切に調整すること」が、リハビリとの相乗効果で回復を支える大きな柱になると考えています。
本総説は、中国リハビリテーション学会の機関誌 Neural Regeneration Researchに報告しました。
◆原論文情報
doi: 10.4103/NRR.NRR-D-25-00738. Online ahead of print.