新潟医療福祉大学心理健康学科の野村照幸教授らは、医療観察法の対象となる方の地域生活と社会復帰を支える支援体制について、地域で通院処遇を担う医療スタッフが直面する困難感と支援ニーズの構造を明らかにする研究を実施しました。
その結果、現場で必要とされる支援は個人の経験年数よりも、リスク対応や関係機関との連携いった実務上の課題や組織的な支援体制と強く関係していることが示されました。また、専門性を有する指定入院医療機関が地域の指定通院医療機関を支える「リエゾン型後方支援」は、現場の過負荷を防ぎ、ケアの連続性を担保する方策として検討に値することが示唆されました。
本研究成果は、日本社会精神医学会雑誌 第35巻第2号(2026年5月)に掲載されました。
【研究概要】
本研究では、医療観察法の通院処遇を担う指定通院医療機関のスタッフ248名を対象に、困難感や支援ニーズを把握するための尺度を新たに作成し、全国規模のウェブ調査を実施しました。
その結果、スタッフの支援ニーズは、個人の経験年数よりも、リスク対応や関係機関との連携、院内支援体制などの実務上・組織上の要因と強く関連することが明らかになりました。また、専門性を有する指定入院医療機関が指定通院医療機関を助言・調整面で支える『リエゾン型後方支援』は、スタッフの過重負担を防ぎ、継続的な支援の質を保つ方策となる可能性が示されました。
本研究は、司法精神医療の現場における支援体制のあり方を検討したものであり、今後の地域精神保健医療の充実や支援者支援の発展に役立つことが期待されます。

【研究成果のポイント】
① スタッフが抱える支援ニーズの構造を明らかに
スタッフの支援ニーズは、「運営体制・スタッフケア」「個別特性・リスク対応」「協働計画ツール運用」「協働チーム連携調整」「移行・生活基盤確保支援」「意思決定・協働」の6つの因子で構成されることが明らかになりました。
② 個人の経験年数よりも組織的要因が重要
精神科経験や医療観察法に関する経験年数は支援ニーズと有意な関連を示しませんでした。現場の困難は個人の技能不足ではなく、人員配置や兼務体制などの組織・制度レベルの課題に起因している可能性が高いことが示されました。
③ 「リエゾン型後方支援」の有効性を示唆
臨床的な困難感、特にリスク対応に関する困難は幅広い支援ニーズと強く関連していました。一方で、院内多職種チームによるサポートは、複数の支援ニーズの低さと関連していました。これらの結果から、指定入院医療機関が専門的助言や調整支援を行う「リエゾン型後方支援」体制の構築が、地域処遇の質を担保する上で有効であることが示唆されました。
【研究者のコメント】
◆心理健康学科 野村照幸 教授
本研究は、現場スタッフが個人の努力のみで抱え込みがちな困難を、組織的・制度的な課題として可視化することを目的としました。特に「リスクマネジメント」という高度な判断を要する領域において、スタッフを孤立させないための具体的な支援モデルとして「リエゾン型後方支援」を提言しています。
本知見が、司法精神医療の現場における円滑な運用と、スタッフのウェルビーイング向上に繋がることを期待しています。
【原論文情報】
野村照幸、竹田康二、小池純子、本間(照井)稔宏、宮崎真理子、島田隆生、和田舞美、藤井千代
「医療観察法指定通院医療機関スタッフの困難感・支援ニーズの構造と関連要因の検討」日本社会精神医学会雑誌
第35巻第2号
164-176
2026年5月
【研究者情報】
新潟医療福祉大学 心理・福祉学部 心理健康学科
教授 野村 照幸
【研究資金】
本研究は、国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費「包括的精神保健サービスを実現するための協働のあり方と人材育成に関する研究」(主任研究者:藤井千代)における分担研究課題「PPIの視点を取り入れた地域司法精神医療制度の開発」(分担研究者:竹田康二)の研究費を用いて実施されました。
【問い合わせ】
新潟医療福祉大学 入試広報部広報課
所在地:新潟県新潟市北区島見町1398番地
TEL:025-257-4459