医療観察法による通院医療では、対象となる方が地域で生活しながら社会復帰を進められるよう、医療や福祉などの関係機関が連携して支援します。その中心的な役割を担うのが指定通院医療機関です。
一方、こうした医療機関の多くは、通常の精神科診療を行いながら、医療観察法に基づく専門的な治療や支援も担っています。新潟医療福祉大学心理健康学科の野村照幸教授らの研究グループは、指定通院医療機関の管理的立場にある職員を対象に、医療機関として抱える運営上の困難と支援ニーズを調査しました。
その結果、「複数名の対象者を同時に受け入れることについての職員の不安」や、「医療観察法業務による一般精神科医療の業務の圧迫」などの困難が大きいことが示されました。また、必要とされる支援では、「治療・支援に見合った診療報酬」と「多職種を雇用するための財源」が特に高い結果となりました。
さらに、指定通院医療機関としての指定年数が長いほど困難感が高く、受け入れている対象者数や提供する治療・支援の種類が多い医療機関ほど、支援ニーズが高い傾向が認められました。
これらの結果から、地域での通院医療を持続可能なものにするためには、個々の医療機関やスタッフの努力だけではなく、人員・財政面の支援や専門機関との連携などを含めた、組織的・制度的な支援のあり方を検討していく必要性が示されました。
この研究成果をまとめた論文は、『司法精神医学』第21巻第1号、2026年9月に掲載されました。
【研究概要】
医療観察法による通院医療では、対象となる方が地域で生活しながら社会復帰を進められるよう、指定通院医療機関を中心に、社会復帰調整官、福祉サービス、訪問看護、行政機関などが連携して支援します。
その一方で、指定通院医療機関では、通常の精神科診療と並行しながら医療観察法に基づく専門的な治療・支援を行う必要があります。専従スタッフの配置が難しいなかで、診察や面接に加え、多職種による会議、関係機関との連絡調整、書類作成なども求められます。
本研究では、指定通院医療機関として確認できた全国194機関を対象に調査を行い、46機関の管理的立場にある職員から回答を得ました。先行研究と医療観察法の実務経験者による検討をもとに、「指定通院医療機関としての困難感」と「支援ニーズ」を把握する質問項目を作成し、医療機関の特徴や支援体制との関係を検討しました。
その結果、困難感では、「複数名の対象者を同時に受け入れることについての職員の不安」が最も高く、次いで「医療観察法業務による一般精神科医療の業務の圧迫」などが高い値を示しました。
支援ニーズでは、「治療・支援に見合った診療報酬」と「多職種を雇用するための財源」が特に高く、人員面・財政面を含めた支援の必要性が示されました。
また、指定通院医療機関としての指定年数が長いほど困難感が高い傾向が認められました。さらに、受け入れている対象者数が多い医療機関や、提供する治療・支援の種類が多い医療機関ほど、支援ニーズが高い傾向がみられました。
困難感と支援ニーズとの間にも中程度の正の関連が認められ、困難感が高い医療機関ほど、支援ニーズも高い傾向が示されました。
一方、指定入院医療機関との連携については、その必要性が高く認識されていましたが、現在の関わりの程度と、指定通院医療機関の困難感や支援ニーズとの間には明確な関連は認められませんでした。
この結果は、単に連携の機会を増やすだけではなく、必要なときに、どのような専門的支援を、どのような形で地域の医療機関につないでいくのかを検討する必要があることを示しています。

【研究成果のポイント】
① 地域で医療観察法を担う医療機関の「運営上の負担」を可視化
最も高い困難感は、「複数名の対象者を同時に受け入れることについての職員の不安」でした。
また、医療観察法に関する診察、面接、会議などによって、一般精神科医療の業務が圧迫されることも大きな課題となっていました。
指定通院医療機関では、通常の精神科医療を提供しながら、医療観察法による専門的な通院医療も担っています。今回の結果は、こうした二つの役割を並行して担うことに伴う運営上の負担を示しています。
② 人員と財源に対する支援ニーズが特に高い
支援ニーズでは、「治療・支援に見合った診療報酬」が最も高く、次いで「多職種を雇用するための財源」が高い結果となりました。
専門的な地域支援を継続していくためには、スタッフ個人の努力だけではなく、人員配置や財政面を含めた組織・制度レベルでの支援について検討する必要があります。
③ 積極的に取り組む医療機関ほど支援を必要とする可能性
受け入れている対象者数が多い医療機関や、多様な治療・支援を提供している医療機関ほど、支援ニーズが高い傾向がみられました。
また、指定通院医療機関としての指定年数が長いほど、困難感が高い傾向も認められました。
これらの結果から、長年、指定通院医療機関として取り組んできたからといって、必ずしも困難が小さくなるわけではなく、むしろ多くの対象者を受け入れ、多様な支援を担う医療機関ほど、人員や財源などの支援を必要としている可能性があります。
④ 入院医療から地域医療への「つながり方」をさらに検討する必要がある
指定入院医療機関との連携については、その必要性が高く認識されていました。
一方、現在の指定入院医療機関との関わりの程度と、指定通院医療機関の困難感や支援ニーズとの間には、明確な関連は認められませんでした。
そのため、単に連携の機会を増やすだけではなく、入院中に蓄積された専門的な知見を、地域での支援にどのような形でつないでいくのかを検討する必要があります
【研究者のコメント】
◆新潟医療福祉大学心理健康学科 野村照幸教授
医療観察法の通院処遇は、対象となる方が地域で生活しながら社会復帰を進めていくための重要な仕組みです。
一方で、指定通院医療機関では、通常の精神科医療と並行しながら専門的な支援を行う必要があり、限られた人員や時間のなかで支援を継続することが求められています。
今回の研究から、長年、指定通院医療機関として取り組んできた医療機関であっても、困難が小さくなるとは限らないことが分かりました。また、多くの対象者を受け入れ、多様な治療・支援を提供している医療機関ほど、支援ニーズも高い傾向がみられました。
こうした結果は、医療観察法による通院医療の課題を、スタッフ個人の経験や努力だけの問題として捉えるのではなく、医療機関を支える仕組みそのものについて考える必要があることを示していると思います。
医療観察法による地域での支援を、一部の医療機関やスタッフの努力だけに依存する仕組みにしないことが重要です。人材の確保や財政的な支援に加え、指定入院医療機関をはじめとする専門機関の知見を、必要なときに地域の支援に活用できる仕組みなどを組み合わせながら、持続可能な支援体制をつくっていく必要があると考えています。
【原論文情報】
論文名:「指定通院医療機関の管理職の抱える困難感と支援ニーズ―医療観察法通院処遇の現状から―」
著者:野村照幸、竹田康二、小池純子、宮崎真理子、本間(照井)稔宏、藤井千代
掲載誌:『司法精神医学』第21巻第1号、4-14頁、2026年9月
本研究は、国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費「包括的精神保健サービスを実現するための協働のあり方と人材育成に関する研究」(主任研究者:藤井千代)における分担研究課題「PPIの視点を取り入れた地域司法精神医療制度の開発」(分担研究者:竹田康二)の研究費を用いて実施されました。