新潟医療福祉大学救急救命学科の大松健太郎准教授、金沢医科大学の牛本知孝講師および稲葉英夫客員教授(本学前教授)らの共同研究グループは、日本で発生した院外心停止について、住民以外の来訪者における「国内からの来訪者(国内来訪者)」と「国外からの来訪者(訪日外国人)」の特徴と転帰を比較する全国規模の研究を実施し、Springer Nature社が発行する国際誌Scientific Reportsに2026年3月13日付で正式に掲載されました。
◆研究の背景
日本を訪れる外国人旅行者・ビジネス渡航者は年々増加しており、2023年以降はコロナ禍前の水準を大きく上回っています。こうした「訪日外国人」が院外心停止を起こした場合、周囲にいる一般市民(バイスタンダー)による心肺蘇生や救急隊の対応が、国内来訪者と異なる可能性があります。しかし、両者の特徴や救命率の違いを全国規模で比較した研究は、これまでほとんどありませんでした。
研究グループは、総務省消防庁の全国救急蘇生データと全国救急搬送データ(2018〜2023年)を用いて、日本全国で救急搬送された約5万7千件を対象に後ろ向きコホート研究を実施しました。傷病者の居住区分(住民・国内来訪者・訪日外国人)を特定し、「国内来訪者」と「訪日外国人」の心停止の特徴、バイスタンダーによる心肺蘇生の実施状況、および1か月後の神経学的予後(社会復帰率)を比較検討しました。
◆主な結果1:社会復帰率の差
1か月後の社会復帰率は、国内来訪者14.4%に対し、訪日外国人では8.2%と約6ポイントの差がありました(調整オッズ比0.61、95%信頼区間0.55–0.68)。目撃者あり心停止例に限った傾向スコアマッチング後でも、訪日外国人のほうが有意に転帰不良でした(9.1% vs. 14.2%、調整オッズ比0.65)。
◆主な結果2:バイスタンダーによる心肺蘇生実施率の差
バイスタンダーによる心肺蘇生実施率は訪日外国人では30.8%と、国内来訪者の58.0%と比較して低い値でした。また、心停止の目撃率も訪日外国人では低く、通りすがりの見知らぬ人に目撃されるケースが多い傾向がありました。言語・文化・状況的な障壁が、バイスタンダーの行動に影響している可能性が示唆されます。

◆COVID-19流行の影響
COVID-19流行期(2020〜2021年)にはいずれの群でもバイスタンダーCPR実施率が低下しましたが、その低下幅は訪日外国人でより大きく(交互作用 のP値=0.02)、パンデミックが既存の格差をさらに拡大させた可能性が示されました。
◆研究者のコメント
本研究により、日本における院外心停止の救命率が、来訪者の属性によって異なる可能性が示されました。特に訪日外国人では、言語や文化の違い、周囲の人との関係性の希薄さなどが、バイスタンダーによる救命処置に影響している可能性があります。
今後は、多言語での救急対応情報のさらなる整備や、観光地・公共空間における心肺蘇生およびAED教育の強化などを通じて、すべての人が適切な救命処置を受けられる環境づくりが重要です。
◆原論文情報
Omatsu K, Ushimoto T, Inaba H.
Bystander and emergency medical service responses to and outcomes of out-of-hospital cardiac arrest among domestic and non-domestic visitors in Japan.
Scientific Reports. 6(1):8935. 2026.
https://doi.org/10.1038/s41598-026-41033-0
◆共同研究グループ
新潟医療福祉大学医療技術学部救急救命学科
准教授 大松 健太郎
金沢医科大学医学部救急医学講座
客員教授 稲葉 英夫
講師 牛本 知孝