本学の化学物質管理者ならびに化学物質管理委員会委員長を務める臨床技術学科の中山憲司准教授が、本学の国際交流センターの支援を受け、8月18日(火)・19日(水)に台湾・中山医学大学(Chung Shan Medical University:CSMU)で開催された安全衛生研修ワークショップに参加しました(図1)。

本ワークショップは、CSMUが毎年夏季休業期間に実施している体系的な安全衛生教育プログラムです。学部3年生以上の学生がティーチングアシスタントとして教育・研究活動を補助する場合や、大学院生、ポストドクター、教員等が実験・研究に従事する際に必要となる安全衛生教育を受講し、所定の認定を取得することを目的として実施されています(図2)。今回の参加は、本学における化学物質管理および安全衛生教育のさらなる高度化を図るとともに、海外大学における先進的な安全管理体制を学び、その知見を本学の教育・研究環境へ還元することを目的としたものです。

国際学生交流をきっかけに安全衛生教育を比較
今回のワークショップ参加の契機となったのは、本年3月に台湾で開催された国際医療技術学生会議でした。同会議において、中山准教授は「化学物質のリスクと安全管理」をテーマとした講演を行い、講演の中で化学物質の安全管理に関する理解度を確認しました。その結果、海外の学生が高い理解度を示す傾向が認められました。
この背景について海外の教員らと意見交換を行ったところ、台湾では、今回参加したような安全衛生研修が毎年継続して実施されており、学生の段階から体系的に安全衛生教育を受ける機会が設けられていることが分かりました。こうした国際学生交流を通じた気付きが、本学の安全衛生教育を国際的な視点から見直す契機となり、今回のワークショップ参加へとつながりました。今回の参加は、単なる海外研修にとどまらず、海外大学の教育体制を直接学び、本学の安全衛生教育と比較・検証する貴重な機会となりました。
200名を超える学生が安全衛生を学ぶ
ワークショップは、大きく「化学物質安全管理」、「バイオセーフティ」、「安全キャビネット」の3つの分野で構成されていました。各講義には、学外からそれぞれの分野の第一線で活躍する専門家が招聘され、実際の事故事例や写真、研究現場における具体的な対応などを取り入れた、実践性の高い内容で構成されていました。
会場には200名を超える学生らが参加し、長時間にわたる研修にもかかわらず、参加者が終始高い集中力を保ちながら受講している姿が大変印象的でした(図3)。安全衛生を単なる知識として学ぶのではなく、実際の研究活動に直結する重要な基盤として捉え、学生の段階から体系的に学ぶ教育体制が整えられていることを実感しました。

ワークショップで特に印象に残った3点
今回の研修を通して、特に印象に残った点が3つありました。
第一に、台湾では、大学等の実験室・実習場所における安全衛生管理の枠組みの中で、教職員のみならず、実験・研究に従事する学生や大学院生も安全衛生教育の対象として明確に意識されていたことです(図4)。

日本においても、学生は大学を構成する重要な一員であり、実験・実習・研究活動における安全確保は極めて重要です。一方で、日本の労働安全衛生関係法令上、学生の位置付けは、雇用関係にある教職員とは異なります。そのため、学生に対する安全教育については、労働安全衛生法上の労働者教育とは区別しつつ、各大学が教育上および安全配慮上の責任として、実験・実習・研究活動に即した安全教育の仕組みを構築していくことが求められます。
第二に、化学物質に関連する事故・災害事例が数多く紹介されていたことです。講義では、実際に報道された事故などを題材として、硫酸や硝酸などの強酸への曝露事故や、水酸化ナトリウムをはじめとする強アルカリによる重篤な眼障害など、化学物質を取り扱う際に起こり得る事故事例が具体的に紹介されました(図5)。

さらに、事故の結果だけではなく、「なぜ事故が起きたのか」「どのような対策を講じるべきだったのか」という視点から解説が行われており、実際の事故事例を安全衛生教育に活用する重要性を改めて認識する機会となりました。
第三に、バイオセーフティに関する講義において、通常の生物試料だけでなく、古生物学や考古学などで扱われる古い生物由来試料の安全性についても議論が行われたことです。特に印象的だったのは、試料の種類だけで安全性を一律に判断するのではなく、実際に想定される危険性を事前に評価し、そのリスクに応じた対策を講じる「リスクベース」の考え方が重視されていた点です。例えば、古い骨試料では、過去の病原体そのものよりも、保存環境中で付着したカビや真菌胞子、切断・研磨時に発生する粉じんやエアロゾルなどが、より現実的なリスクとなり得ることについて解説がありました。このように、現代の生物試料に限らず、多様な研究分野に存在する潜在的な生物学的リスクを具体的に評価し、適切な対策につなげるという考え方から、バイオセーフティ教育が対象とする領域の広さと重要性を改めて認識しました。
研修終了後には、各講師との意見交換や情報交換を行い、安全衛生教育や研究現場におけるリスク管理について、さらに理解を深めることができました。
安全衛生教育を契機に大学間連携のさらなる発展へ
今回のワークショップへの参加を通じて、CSMUで実施されている安全衛生教育と、本学が実施している化学物質取扱講習会等の内容を比較する貴重な機会を得ることができました。その結果、本学においても、化学物質の適正な取扱い、リスクアセスメント、保護具の使用など、安全衛生教育に必要とされる基本的かつ重要な内容が着実に実施されていることを改めて確認することができました。一方で、実際に発生した事故・災害事例を活用した教育については、さらに内容を充実させる余地があることも明らかとなりました。今後も、本学における化学物質の適正な運用・管理を一層推進するとともに、我が国で進められている『化学物質の自律的管理』に的確に対応し、実務と教育の両面から安全衛生体制のさらなる高度化を図っていきます。
また、今回得られた知見を学内の安全衛生教育へ還元するとともに、台湾をはじめとするアジア地域の大学との継続的な情報交換と連携を通じて、国際的な視点を取り入れた、より安全で質の高い教育・研究環境の構築を目指します。
今回の訪問では、8月1日に就任されたCSMUの第16代学長として林俊哲先生、ならびに副学長として宋賢穎先生とのご面談の機会も得ることができました(図6)。

ご面談では、今回の安全衛生教育プログラムに参加した経緯をご説明するとともに、これまでCSMUとの交流を通じて多くの学びと貴重な機会を得ていることへの感謝をお伝えしました。さらに、これまで積み重ねてきた学生交流や教育・研究交流を踏まえ、今後の両大学の連携の可能性について意見交換を行いました。
今回の訪問を通じて得られた安全衛生教育に関する知見を本学の教育・研究環境のさらなる充実へとつなげるとともに、CSMUをはじめとする海外大学との交流を一層深化させ、教育、研究、安全衛生の各分野における国際連携の発展に取り組んでいきます。本学は今後も、安全で質の高い教育・研究環境を支える「安全文化」の醸成を重要な基盤の一つとして位置づけ、国内外の大学との連携を通じて、そのさらなる発展を目指していきます。