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0.3秒を削る競泳リレースタートトレーニングを開発 競泳リレーの引き継ぎ時間を世界極限の「0.05秒」へ劇的短縮!

2026.09.30 プレスリリース 新着情報

新潟医療福祉大学健康スポーツ学科の下門洋文准教授と、株式会社ルネサンス スイミングコーチの星川慎吾氏(本学大学院修了)らによる競泳リレースタートに関する共同研究が、スポーツ科学分野で世界的に権威のある『Journal of Sports Sciences』に採択されました。この研究では、8週間の専門トレーニングプログラム(スタート台上を移動するロングステップ技術)により、リレーの引き継ぎ時間を平均0.31秒から世界トップレベルの0.05秒へと大幅に短縮することに成功しました。星川氏が新潟医療福祉大学大学院で水泳部のサポートスタッフとして行った研究を昇華させ、トップ選手から指導現場まで応用可能な「スタート改善メソッド」の科学的根拠を実証しました。
本研究成果は、国際誌Journal of Sports Sciences (IF=3.1) に2026年9月19日付で公開されました。

【研究概要】
競泳リレー種目において、前泳者がタッチしてから次泳者が飛び立つまでの「引き継ぎ時間(Changeover Time: COT)」を極限まで短縮することは、勝敗を分ける決定的な要素です。近年、世界の一流選手の間では、スターティングブロックの後方に立って構え、向かってくる前泳者のタッチタイミングに合わせて前方に大きく一歩を踏み出して飛び出す「ロングステップ(Long-step: LS, 図1)」という技術が注目されています。

本研究は、新潟医療福祉大学大学院の修士課程に在籍していた星川氏(現・株式会社ルネサンス)が中心となり、大学男子競泳選手10名を対象に、8週間にわたる陸上トレーニングと水中の技術ドリルを組み合わせた独自のLS指導プログラムを実施しました。トレーニング開始前は平均「0.31秒」だった引き継ぎ時間が、8週間のプログラム後には平均「0.05秒」へと劇的に短縮しました。これは国際大会の決勝レベルに匹敵するスピードです。スタート動作の3次元キネマティクス(動作分析)に加え、筋力測定(等速性下肢筋力)や飛び込み時の恐怖心(心理スケール)の変化を多角的に評価し、LS技術習得のメカニズムを世界で初めて包括的に明らかにしました。


図1. 競泳リレー種目における台上からのロングステップ(LS)スタート

【研究成果のポイント】
引き継ぎ時間(Changeover Time: COT)が世界トップレベルの「0.05秒」へ
LSを普段行っていない熟練スイマーを対象に、トレーニング開始前は平均「0.31秒」だった引き継ぎ時間が、8週間のプログラム後には平均「0.05秒」へと劇的に短縮しました。これは国際大会の決勝レベルに匹敵するスピードです。

5m通過タイムが約0.2秒短縮
引き継ぎ時間を極限まで縮めつつも、飛び出しスピード(離台水平速度)を落とすことなく、5m通過タイムを平均1.17秒から0.94秒へと大幅に短縮させました(※グライド技術を用いた条件下)。

「無駄のないフラットな飛び出し」と「後ろ脚の引き込み力」を解明
動作分析の結果、飛び出す瞬間の身体の重心軌道がより低く、水平に近くなっていることが分かりました。また、筋力測定により、大きく一歩を踏み出す際に「後ろ脚の太もも裏の筋肉(ハムストリングス)」を素早く屈曲させる筋力が向上したことが、この鋭い飛び出しを支えていることを突き止めました。

飛び込みに対する「恐怖心」の克服
専門プログラムによる段階的な技術習得により、選手が飛び込む際の心理的な恐怖心が有意に減少したことも、アグレッシブなスタートを可能にした要因であることが確認されました。

 【研究の詳細】
1. 指導現場が直面するボトルネック
競泳リレー種目において、前泳者のタッチに完璧にタイミングを合わせる「引き継ぎ動作(Changeover)」は、0.01秒を争う勝負の分水嶺です。しかし、タイミングを焦れば失格(フライング)となるため、多くの指導現場では「安全だが遅い引き継ぎ」を選択するか、あるいはタイミングを合わせようとしてスタート台(ブロック)を強く蹴り出せず、飛び出しスピードが低下するというジレンマを抱えていました。近年世界の一流選手が導入している、一歩大きく前に踏み出す「ロングステップ(LS)」スタートは極めて有効ですが、その複雑な動作の習得プロセスや、身体の中で起こっている神経・筋力適応のメカニズムはこれまで包括的に明かされていませんでした。

本研究は、この指導現場のリアルなペインポイント(コストを払ってでも解決したい悩み)を解決するため、10名の大学男子競泳選手を対象に、8週間の専門プログラムを実施し、そのバイオメカニクス的適応と筋力適応を科学的に解明しました。

2. 研究成果:詳細な測定データ
8週間のLSトレーニングプログラムの介入前後における、主要なキネマティクス(動作分析)データ、下肢等速性筋力、および心理的評価の比較は以下の通りです。

表1:LSスタートトレーニングプログラム前後(Pre vs. Post)の測定データ対比

3. 指導・練習計画への処方箋
本研究で実証された「ロングステップ習得プログラム」は、通常のスイミングスクールや部活動の練習(週12〜16時間)を妨げることなく、「1日わずか15〜20分・週2回・8週間」の極小用量で効果が発現するように設計されています。神経適応を最大化し、疲労によるケガを防ぐため、以下の4ステップで段階的に進めます(図2)。

STEP 1:陸上でのプールサイド・ステップドリル(1〜2週目)

メニュー:陸上での後ろ脚スイングとバランス維持(週2回、各10分)。
目的:高重量の負荷をかけず、後ろ脚を前方に移動させる感覚と、片脚での支持バランスを構築する。

STEP 2:壁固定チューブを用いた抵抗ステップドリル(3〜4週目)

メニュー:模擬傾斜台の上で、腰にゴムチューブで抵抗をかけた状態でのステップ動作(週2回、3セット×5レップ、セット間2分回復)。
目的:飛び出しの方向にのみ特異的な「抵抗」を加えることで、後ろ脚の引き込みに必要なハムストリングス(太もも裏)を強力に活性化させる。

STEP 3:実際のスタート台からの個別LSスタート(5〜6週目)

メニュー:プール内の実際のスタート台からのLS飛び込み(週2回、5〜6ダイブ、1ダイブごとに十分なレスト)。
目的:サブマキシマル(準全力)から始め、徐々に最大努力へと強度を高め、低く鋭い「水平飛び出し」の軌道を安定させる。

STEP 4:レースを再現した引き継ぎ実戦ドリル(7〜8週目)

メニュー:泳いでくるチームメイトのスピードに合わせた、実戦形式のLSリレースタート(週2回、4〜5ダイブ)。
目的:フライング検出システム(Omega OSB11/12対応)を意識し、異なるスピードでタッチにくる前泳者とのシンクロタイミングを完璧に同調させる。


図2. プールサイドから実際のLSスタートまでの8週間ドリル

【今後の展望】
本研究で実証された「安全かつ段階的なスタート習得プログラム」の知見は、今後、競技スポーツの強化と社会課題の解決という両輪において広く還元・展開されます。

  1. 新潟医療福祉大学から、世界へ羽ばたくオリンピアンの輩出

研究成果は、まず新潟医療福祉大学水泳部の日常のトレーニングに深く組み込まれます。バイオメカニクスに基づいた最先端のスタート・引き継ぎ技術を定着させることで、国内トップレベルスイマーの競技力をさらに引き上げ、本学からのオリンピアン輩出を強力に目指します。

  1. 「学校プールの老朽化」と「泳げない子供の増加」という社会問題への貢献

現在、多くの教育現場において、学校プールの老朽化にともなう改修費の高騰、水泳指導や安全管理に伴う教員の重労働化、そしてこれらに起因する「泳げない子供の増加(水泳指導機会の減少)」が深刻な社会問題となっています。これに伴い、学校の水泳授業を地域の民間スイミングスクールへ委託する動きが全国で加速しています。

本研究が実証した「選手が抱く恐怖心を科学的にコントロールし、陸上から水中へ段階的にステップを踏む指導法」は、安全管理が最も難しいとされる「飛び込み指導」における極めて重要な安全指針(エビデンス)となります。

私たちはこの研究にとどまらず、現場に還元できる水泳に関連した科学的根拠(エビデンス)をつくり続け、民間スイミングスクールと学校教育のシームレスな連携を支援し、すべての子供たちが安全に、かつ効果的に泳ぎを学べる「持続可能な水泳授業」の実現に向けて貢献していきます。

 

【研究者のコメント】
■ 第2著者:星川 慎吾(株式会社ルネサンス スイミングコーチ/本研究当時:新潟医療福祉大学大学院 修士課程)

「LSスタートは近年世界や国内でも幅広いレベル、年齢帯で使用されていますが、『記録の向上に本当に役立つのか?引き継ぎの練習はどのくらいの量、期間が必要なのか?』といった現場の疑問を解消するべく研究がスタートしました。引き継ぎ時間の大幅な短縮、LSスタートのドリル練習によって動作の改善が見られながら、飛び出し時の速度は落ちることがなかった結果は記録の向上に大きく貢献されると思います。今後は多くの指導者、選手の目に留まり、実践をしていただきチーム内の記録向上、果ては国力の向上に役立っていってほしいと思います。」

 

◆健康スポーツ学科 下門洋文 准教授
「LSスタートは一見すると単に大きく一歩踏み出しているだけに見えますが、バイオメカニクス的には巧妙な動きを台上という狭いスペースで行っていることが明らかとなりました。動作分析により、飛び出す瞬間の重心の無駄な上下動(垂直移動量)がほぼゼロになり、水平方向へダイレクトにロケットのように飛び出せていることが実証されました。これを可能にしたのが、等速性筋力測定で明らかになった『後ろ脚の太もも裏(ハムストリングス)を高速で屈曲させる力の倍増(0.55→1.05 Nm/kg)』です。この後ろ脚を瞬時に前方へと『引き込む力』の向上が、骨盤の素早い前方向への移動を促し、スタート台を強力に押し出す前足のパワー(前脚膝伸展力)と共鳴して、驚異的なスタートスピードを生み出していました。この研究成果は、世界一流コーチたちが感覚的に行ってきた指導を、力学的・神経適応的に完全に裏付けるものです。また、本研究は、大学が持つ最先端の動作解析技術と、プロフェッショナルである水泳部コーチらの鋭い問題意識が融合した、まさに「科学的根拠に基づいたトレーニング開発」の理想的な成果といえます。当時大学院生だった星川氏は、本学水泳部のコーチングスタッフをしており、現場で感じた小さな疑問を集めて自分の研究として昇華させました。今回採択された雑誌のレビュワー(査読者)からも、競泳リレーにおける現場への応用可能性が極めて高い研究であると絶賛されました。権威あるスポーツ科学誌『Journal of Sports Sciences』に認められたことは、指導者を目指す多くの大学院生・コーチにとっても大きな希望となると思います。」

 

【原論文情報】
雑誌名: Journal of Sports Sciences

論文タイトル: 「Effects of an 8-Week Long-Step Start Training Programme Intervention on Relay Performance in Collegiate Male Swimmers: A Single-Arm Study」
著者: Hirofumi Shimojo, Shingo Hoshikawa, Shoichiro Yamashiro, Rio Nara, Yoshimitsu Shimoyama
利益相反・資金援助:本研究に関して開示すべき利益相反はありません。

公開日: 2026年9月19日
DOI  https://doi.org/10.1080/02640414.2026.2735689